カラオケ


同じ高校から7人、同じ大学へ行った。

 

その7人のうちの1人に、S君が居た。このS君、高校の仲良しグループの1人だった。

 

初めての大学入学時、知り合いが1人でも居るのは心強いものだ。

 

入学して数日経ったある日、S君は私にこう言った。

 

 


「Aさぁ、今度俺ん家で入学祝いしようぜ!」

 

 


こんな感じでS君から誘われたので参加した。なんなら、S君は生粋のお酒好きで大学入学前に何回も一緒に呑んだことがあった。

 

その日は、新しく仲良くなった友達6人、S君、私の計8人で呑んだ。1Kに8人はすごく狭かった。

 

18歳はお酒の飲み方なんか分からない。焼酎を紙コップなみなみに注ぎ、ゲームで負けた人がイッキした。

 

みんなベロベロになった。
黒霧島の5合瓶3本がすぐに空になっていた。

 

気付いたらK君がトイレにこもっていた。気分が悪かったのだろう。


鍵が閉まって無かったので、「お〜い」と開けると…

 


しゃがんで便器を掴む際に、手がボタンに触れたのだろう…

 

 

 

 

 

 

水浴びしてた。

 

 

 


水がシャーって顔に当たったまま、目をつぶって「ウー、ウー」と言っていた。


このK君はそれから卒業までの4年間、こう呼ばれることになる…

 

 

 

 

「ウォシュレット」と。

 

 

 

 

 

入学早々に彼のあだ名が決まった瞬間である。

 

それからウォシュレット以外の7人は、近所のカラオケへ向かう。大学あるあるで宅飲みからのカラオケオールだ。

 

道中、アスファルトの隙間から花が咲いているのを見たM君は、それを見てこう言った。

 

 

 

 

 

 

「街角に ぽっつり咲いた シクラメン

 

 

 

 

 

 

は…はい?







誰しもが意表を突かれる、急な「五七五」だ。

 

 

 

 

このM君はそれから卒業までの4年間、こう呼ばれることになる。

 

 

 

 

 

シクラメンと。

 

 

 

 

そうこうしているうちにカラオケに着いた。

それと同時に思い出した。

 

私は完全に忘れていた。
というよりは、カラオケに着いてから気付いた。

 

 

 

 

S君と一緒にカラオケに来てしまったことに。

 

 

 


部屋に通された私達は乾杯し、カラオケを楽しんだ。

 

開始して30分ぐらい経っただろうか。S君がマイクを持った。まだ曲を入れてもいないのに先にマイクを持つあたりがS君らしい。

 

 

そのS君がついにデンモクで曲を入れた。

 

 

 

 

ぴぴぴぴぴ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つけまつける」


by きゃりーぱみゅぱみゅ

 

 

 

 

 

 

 

(始まった…)

 

 

 

 


S君は男だ。
きゃりーぱみゅぱみゅなんて、普通は高くて歌えるわけがない。

 

このS君は違う…

 

 

 

 

下手な裏声のみで一曲丸々歌いあげるのだ。

 

 

 

 

しかも「完コピしたダンス付き」で。

 

 

 


正直、初見でこれを見ると結構面白い。

声も面白いし、ダンスも面白い。

実際にみんな大爆笑している。


ただ、一曲丸々4分くらいの間、ずっとやる。ずーっとやる。酔ったら毎回やる。まいっ回やる。めっちゃくどい。

 

 

ちゃんと想像していただきたい。

 

 

 

 

 


米良美一を除いて、男の裏声のみを4分間も耳にするのは苦行である。

 

 

 

この光景を見慣れてしまった私には一切笑えなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

「つーけまっつーけまっつけまつけるっ♪(ふりふりっ)」

 

 

 

 

 

やめてくれぇぇ…

 

 

 

 

 


(フラッシュバックしてきたので)おしまいっ♪